擁壁を解体する手順や費用について
かいたいコラム「土留め」とも呼ばれる擁壁ですが、意識して周辺を見てみると案外、身近ないろいろな場所にあることに気づくかもしれません。これも1つの建造物です。普段は意識することなく通り過ぎてしまいがちな擁壁ですが、いざ家を解体する段階になると以外にも、その存在の大きさに気づくかもしれません。今回はその擁壁について取り上げました。
あらためて知っておきたい擁壁について
擁壁の存在は風景の一部として認識していても、その目的や構造等まで知る人は少ないのではないでしょうか? しかし、家の解体の際には、擁壁も一緒に解体することがあります。そこで、まずは擁壁がなんであるか、その目的などについて知っておきましょう。
擁壁の意味と役割
冒頭で、「土留め」といいましたが、そもそも擁壁(ようへき)とは土を押さえておくための構造物です。
山などの高台を切り開いて造った宅地や盛土して平らにした土地などは、地盤が軟弱なことが多くあります。そのままにしておくと倒壊や土砂崩れなどを引き起こす可能性があります。そのため、支えとして設置するのが擁壁ということです。
似たようなものに「壁」があります。しかし、擁壁が壁と異なる点は、擁壁を境として隣り合った土地同士に高低差があり、土を受け止めている、ということです。
壁の場合は隣り合う土地は同じ高さで、外部からの視線を仕切ることが目的となっています。
擁壁の構造と種類
擁壁には、素材や形状の違いから主に「鉄筋コンクリート造り」、「コンクリート造り」、「石造り」の3種類があります。
鉄筋コンクリート造りの擁壁
この場合、鉄筋で基礎部分を組んでから、そこにコンクリートを流し込みます。強度が最も高くて安全であることから、最近はこの方法で擁壁を作ることが主流です。
コンクリート造りの擁壁
鉄筋を使わないことから「無筋コンクリート造り」とも呼ばれています。コンクリートという重い材料で擁壁を作ることで、圧力に対抗できることから、「重力式」といわれています。この造りの場合、安全性を保つために擁壁の下の部分は前に、上の部分は奥になる斜めの形状にします。それでも安全性は鉄筋コンクリート造りよりも低く、脆弱な地盤、不安定な場所には用いることができません。
また、コンクリート造りの擁壁の1つに「もたれ式」といわれるものがあります。これは安定した地山にもたれるようにコンクリートを打って擁壁を造るものです。基礎となる地盤がしっかりした固いものであることが大前提となります。加えて、擁壁が自立していない状態で擁壁を造る作業を行うため、細心の注意が必要になります。
石造りの擁壁
石や石を模したコンクリートブロックを積み上げて擁壁を造ります。これには次の種類があります。
① 練積み式:積み上げた石と石の間にセメントやモルタルを流し込んで、しっかりと連結させます。
② 空積み式:石を積み上げますが、その間にセメントやモルタルなどを充填しないものです。擁壁のなかでもっとも簡単な造りです。
③ ガンタ積み:古いコンクリートの塊を利用したものです。
④ 二段擁壁:擁壁が二段階になっているものです。
安全な擁壁のための規定
最初に「擁壁は土を押さえておくための構造物」という説明をしました。その意味をさらに広げていくと、擁壁で守っている部分の土地には人が暮らしたり仕事をしたりしている建物が建っています。もしも擁壁が崩れてしまえば、そこにある建物はもちろん、そこで暮らす人や仕事をしている人たちにも大きな影響を与えることになります。
そこで、擁壁の安全を保つために建築基準(第142条)法によって構造を次のように定めています。その一部をご紹介します。
① 鉄筋コンクリート造、石造、その他、これらに類する腐食しない材料を用いた構造とすること。
② 石造の擁壁にあっては、コンクリートを用いて裏込めし、石と石とを十分に連結すること。
③ 擁壁の裏面の排水を良くするため水抜穴を設け、かつ、擁壁の裏面の水抜穴の周辺に砂利その他これに類するものを詰めること。
擁壁の解体
「擁壁」といっても、構造の異なるさまざまな種類があることをご理解いただけたと思います。では、ここから擁壁の解体について考えていきたいと思います。
擁壁の解体が必要なとき
擁壁の一般的な耐用年数はコンクリート造や鉄筋コンクリート造であれば30~50年ほどといわれています。その種類によっての違いはあるものの、20年ほどたったころから劣化が進行しやすく、危険性も大きくなるため、改修や解体を検討する時期を迎えます。
こういったこと含めて、擁壁を解体するタイミングとして次の2つが挙げられます。
① 擁壁が崩れそう、もしくは崩れる危険性があるとき。
擁壁が崩れてしまうということは、ほぼ土砂崩れと同じような状況です。そのため、もしその擁壁に崩れそうな兆候が表れていたら、崩れる前に解体や建て替えを行うことが重要です。
擁壁が崩れそうなときに表れる兆候とは次のようなものですので、注意してみておきましょう。
・擁壁にひび割れ(クラック)ができている。
・つなぎ目がずれて、隙間が発生している。
・擁壁が以前よりも傾斜してきている。
・水抜き穴からの排水ができていない。
② その場所に建つ家屋のスペースを広くしたいとき。
こう思って解体を検討している方もいらっしゃいます。しかし、この目的で擁壁を解体する場合には、必ずその擁壁がどのような目的で、どのような役割りをもってそこに作られたのかを考えてください。それによって解体を行うか否かを判断し、その後の家屋の安全対策等を入念に整えて解体および家屋のリフォームの計画を立てることが大切です。
マトイでは見積り作成時の現地調査等で、「この擁壁を解体するべきか否か」といった相談にも応じさせていただいています。もちろん相談は無料です。お気軽にご依頼ください。
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擁壁の解体の流れ
擁壁の解体は原則としては一般家屋の解体と変わりません。以下のような流れで進められます。
①擁壁の測量・構造・周辺の土地とのつながり等の調査
⇩
②近隣への挨拶
⇩
③擁壁の取壊し
⇩
④廃材の運び出し・処分
なお、家屋解体の一般的な流れはこちらのコラムに詳しく説明していますので、参考になさってください。
擁壁を解体する際の注意
解体時に注意すべき点は、基本的には家屋の解体と同じです。さらに私たち解体業者は、擁壁の特性を配慮して次のような点にも注意しています。
① 倒壊に注意しながら施工する。
擁壁は地盤を支えていますので、それがなくなると土砂崩れのようなことが起こるリスクが出てきます。解体においてはこの点に注意して作業を行う必要があります。
② 近隣地にも配慮して作業する。
家屋の解体と同様に、擁壁の解体でも騒音や振動が発生し、近隣の方々へご迷惑をかけます。業者としては可能な限り騒音や振動の発生が少ない工法を選択しながら工事を進めています。
③ 近隣の住民の皆さんの理解と協力を得る。
上記のように、少なからず近隣の皆さんへご迷惑をおかけすることになります。そのため、事前に工事日程などのお知らせを兼ねて、近隣の方々に挨拶をして工事協力のお願いをします。
解体工事に際して、近隣の方々への挨拶回りはとても大切です。それによってクレームやトラブルのリスクを減らし、工事をスムーズに進めることが可能となります。こちらのコラムで、挨拶回りについて説明していますので、ご覧ください。
構造別の擁壁の解体方法
なお、実際の解体方法は、擁壁の種類や構造によって違いがあります。
【鉄筋コンクリート造の擁壁の場合】
鉄筋コンクリート造の擁壁は、他の構造のものよりも安全性が高いものです。しかし解体となると、鉄筋を組んだ部分にコンクリートを流し込んでいるために、騒音や振動が発生しやすく、時間もかかります。
そのため最近では、静かに擁壁を地面から引き離すことができるバースター工法を用いて解体しています。「バースター工法」とは、コンクリートに穴をあけて、そこに器具を入れて圧力をかけていきます。それによってコンクリートにひびを入れて静かに崩していきます。
【コンクリート造の擁壁の場合】
この場合の解体方法はいくつかあります。その一部が前述の「バースター工法」や「ワイヤーソーイング工法」など、です。
「ワイヤーソーイング工法」ではワイヤーソーを擁壁に巻き付けて切断していきます。
【石造りの擁壁の場合】
石造りの擁壁には、重ねた石やブロックの間にセメントやモルタルを流し込む錬積み式と流し込まない空積み式があります。しかし、解体に際しては、それぞれに大きな違いはありません。
擁壁の上部にある敷地にショベルカーを停め、擁壁の上部から掘削していきます。上から作業を進めることはとても大切なことです。なぜなら、下部から掘削していくと取り壊した石やブロックやその上にある石やブロックが崩れ落ちかねないからです。そうなると、作業員に危険が及ぶとともに、重機等の機材が破損する可能性があります。
なお、擁壁の解体ではコンクリートやブロック、石材などの廃棄物が排出されます。その処分については業者に任せるようになるものの、施主様としてもその責任からどのように処分されるのか気になる点かもしれません。こちらのコラムで、解体で排出されるものの処分について解説していますので、ご一読なさってください。
擁壁の解体費用とその相場
家の解体を経験する人はさほど多くはいらっしゃらないと思います。さらに擁壁の解体を体験する人は少ないはずです。それだけにどのくらいの費用がかかるのか、がとても気になるのではないでしょうか。
解体費用を決める4つの要因
解体費用を決定づけるものとしては、「構造」、「素材」、「大きさ」、「立地環境」の4点が挙げられます。
【構造や素材】
鉄筋コンクリートで造った擁壁は、強度があって高い安全性があります。それだけに工事には時間と労力がかかります。また素材の違いによって、用いる機械も異なってきます。どのような機械を用いるかによっても、費用に違いが出てきます。
【擁壁の大きさ】
大きさには、擁壁の高さ、幅、厚み、足場の有無などが含んでいます。当然のことながら、擁壁が大きくなればなるほど費用は高くなります。それだけでなく敷地をグルっと囲むような擁壁や高さのある擁壁、厚みが厚い擁壁は解体に時間も労力も必要です。また、安全な作業のために足場が必要になったり、慎重に作業を進めるために時間がかかったりすることが、費用にも影響してきます。
【工事する擁壁の周辺環境】
例えば、工事現場周辺の道路が狭くて現場まで重機を運べないときがあります。その場合、解体に重機が使えないので人手=人力に頼ることがあります。また、人通りが激しいところや、道路を占有する必要がある場合は、警備員を配置するなどして、費用がかさみます。
擁壁の解体費用の相場
擁壁の解体工事費用は、一般住宅では数10万円~数100万円程度が目安といわれています。かなり幅がありますが、それはこれまでに説明してきた擁壁の構造や大きさ、周辺環境などの条件による違いのためです。それらを含めた単価相場は、およそ3万円/㎡~5万円/㎡ほどといわれています。
助成金を活用して解体費用の負担を軽減
できれば解体費用は安くして、経済的な負担を軽くしたいとはだれもが思うことです。それは擁壁の解体においても同様です。そしてそのための対策の1つとして注目したいものが、自治体による助成金です。
各市町村などでは、宅地の擁壁工事に対する支援制度を備えているところがあります。もし崖などと同じように、擁壁が何らかの理由で崩壊・転倒すれば、その家や周辺の家、住民の生命に危険が及び、その財産を傷つける可能性があるからです。
しかし助成金制度の有無や助成内容、助成金の申請条件や申請方法などは自治体によって異なります。まずは擁壁の解体や改修を検討しているようであれば、擁壁が所在する自治体の情報を確認してみてください。
【東京都新宿区の擁壁工事に関する助成金について】
擁壁に関する自治体の助成事業として、東京都新宿区の支援内容をその一例としてご紹介します。
〇支援の名称:新宿区擁壁およびがけ改修等支援事業
〇支援-1 コンサルタント派遣(無料)
支援対象:高さ1.5m以上の擁壁・がけの改修、または造り替えの検討。
支援内容:専門技術者による現地調査を実施。調査結果を踏まえて擁壁の改修案を提案。
〇支援―2 土砂災害アドバイザー派遣(無料)
支援対象:東京都知事から土砂災害警戒区域。
支援内容:土砂災害警戒区域等の安全化対策について、対策工事案などを提案。
〇支援内容―3 擁壁およびがけの改修等工事費の助成
支援対象:改修または造り替える擁壁の高さが1.5m以上で、次の条件を満たす擁壁。
*一般道に近接する擁壁
*擁壁の高さの2倍の範囲内に、居住用の建物がある擁壁
支援内容:建築基準法、宅地造成等規制法、および都市計画法並びに東京都建築安全条例に定める基準で施工する改修等の工事に対して、その工事費用の2/3~1/3以内の助成金を支給。なお、助成金額は施工後の擁壁の高さに応じて上限が決められています。また、助成は予算の範囲内で行われるため、予算限度額に達した場合は、その年度の助成は終了されます。
まとめ
擁壁を所有している人のなかでも、擁壁を解体、もしくは改修するということを考える機会はあまりないと思います。それだけに、ある日、擁壁の一部に崩れを発見したり、何らかの異常を認めたりすると、対応に困ってしまうのではないでしょうか。
擁壁はそこに住む人たちを守る大切な建造物です。このコラムをきっかけに、少し擁壁の存在に目を向けていただけたら嬉しいです。
ご自身が所有している擁壁はどのような種類のものなのか、どこかにひび割れのようなものはないか、水抜き穴からの排水は良好か、といったようなことを何気なく観察し把握しておきましょう。それによって擁壁のトラブルや改修の必要性などを早めにキャッチすることができ、擁壁の工事にきっと役立ちます。
マトイでは小さな疑問にも快くご相談に応じます。お気軽にご連絡ください。
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記事の監修
株式会社マトイ 営業担当菅野(かんの)
株式会社マトイ営業部の菅野です。コラムの監修をしております。
実際に仕事の中で経験したこと、調べてより勉強になったこと、両方を読んでくださる皆さまと共有できたらと思っています。
解体は初めてのご経験という方、とても多いのではないでしょうか。
ご不明な点やご要望、疑問に思われていることはございませんか。
どんな些細なことでも丁寧にお答えいたします。お気軽にお問い合せください。
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