借地にある建物は解体していい? 借地の条件や建物解体について
かいたいコラム 建物を解体する場合、施主様はいろいろなことを考えなくてはなりません。予算はどのくらい確保したらいいだろうか、どの業者に依頼するか、着工はいつから、どんな届け出が必要か等々、数え上げたら大変です。
さらに、施主様が解体しようとしている建物が借地の上に建っていたならば、さらに検討しなくてはならないことがほかにもあります。今回はそういった借地に建てられている建物を解体する際に、知っておきたい借地権や借地法、借地借家法、そしてそれらの観点から解体する際に注意すべきことを考えていきます。
知っておきたい借地に関する2つの法律
建物を解体する際、その土地が建物の所有者自身の土地であればその方の都合で行えます。しかし、その土地が借地であった場合、そうはいきません。この借地に関しては「借地法」および「借地借家法」という法律によって諸々のことが決められています。ですから、解体の必要性が生じた際には、この法律に基づいた対処が必要になってきます。そのため、土地を貸している、土地を借りている双方の方々にとっては、この法律について知っておくことが必要です。今回は、土地を借りている方の観点から説明を進めていきます。
借地に関する2つの法律
借地に関しては、現在、次の2つの法律が適用されています。
借地法=旧法
旧法である借地法は、借地権者の権利と建物を守るための「建物保護ニ関スル法律」を前身に大正10年に制定されました。
それ以前は地主の権利の方が強く、もし地主が底地(地主が土地を第三者に貸して地代の収入を得ている土地のこと)を第三者に売却した場合、借地権は無効になるとされていました。そのため、土地を借りてそこで生活していた人はその土地を出ていかなくてはならない状況に置かれました。そういったことから、借地権者保護という意味から、「建物保護ニ関スル法律」ができ、そこから「借地法(旧法)」と「借家法(旧法)」が施行されるに至りました。
とくに「借地法(旧法)」では、土地を借りている人が借地契約の更新を希望した場合、半永久的に借地契約を継続できる自動更新の原則が認められ、借地契約者の見地が強く認められるようになりました。
借地借家法=新法
「借地法(旧法)」の施行によって借地人の立場が強くなってくると、地主側は「土地を貸したら帰ってこない」「自分たちが何か別のことに土地を使おうと思っても自由が利かない」といった認識が広まっていきました。そのため、新たに土地を貸し渋る地主が増え、有効利用されない土地が増えていきました。
この状況を改善するため、「借地法(旧法)」「借家法(旧法)」「建物保護に関する法律」の3つが廃止されました。平成4年8月のことです。これらに代わって、新たに「借地借家法(新法)」が施行されました。
この新法と旧法との大きな違いの1つに、「定期借地権」が設けられたことが挙げられます。これによって地主は、借地期間が満了したら必ずその土地を取り戻すことができるようになりました。そして、土地活用の選択肢が増えて土地の有効活用と活性化がさらに図られるようになったといわれます。
借地法(旧法)と借地借家法(新法)の違い
「借地法(旧法)」と「借家法(旧法)」の違いとして特筆すべき点は、契約更新期間と旧法ではそれが建物の種類によって異なる点にあります。それぞれの違いについて、以下の表で比較しました。
表 借地権に関する旧法と新法の違い
契 約 | 借地法(旧法) | 借地借家法(旧法) |
初回更新以前 | 堅固建物:30年以上 (期間の定めのない場合は60年) 非堅固建物:20年以上 (期間の定めのない場合は30年) |
30年以上 (期間の定めのない場合は30年) |
初回更新時 | 堅固建物:30年以上 (期間の定めのない場合は30年) 非堅固建物:20年以上 (期間の定めのない場合は20年) |
20年以上 (期間の定めのない場合は20年) |
2回目更新時以降 | 堅固建物:30年以上 (期間の定めのない場合は30年) 非堅固建物:20年以上 (期間の定めのない場合は20年) |
10年以上 (期間の定めのない場合は10年) |
土地の借主がもつ基本的な権利と義務
では、2つの法律によって土地の借主には、次のような権利と義務が課せられます。
借地権
借地権とは、長期間にわたって土地を借り、そこに建物を建てる権利です。地域によって違いはあるものの、借地権には土地価格の数十パーセント相当の価値があります。そのため売買や相続することも可能です。
借地契約の中途解約は原則としてできないものの、どうしても解約せざるを得ない事情もあります。その場合、借地権を売却するという方法があります。その場合、借地の上に建てた建物は解体して更地に戻すことが原則となります。
建物買取請求権
この権利は、借地の契約期間が満了を迎える際、借主が更新を希望したにもかかわらず、地主によって契約の更新がされないときに認められる権利です。借主が地主に対して借地の上に建てた建物を時価で買い取ってもらうことができます。
この権利は、旧法から新法に引き継がれているもので、この権利が認められる要件は以下の通りです。
① 借地権の存続期間が満了を迎えるタイミングとなっていること
② 貸主による契約更新がされない
③ 借地の上に建物が存在している
④ 借地権(土地賃貸借権)の譲渡・転貸を地主が承諾しない
また、この権利が認められない要件は以下の通りです。
① 借主の事情で契約を更新しないとき
② 契約満了を迎えていなくても、地主と借主の双方で契約終了を合意した
③ 借主に賃料の未払いなどの債務不履行や契約違反がある
原状回復義務
前述した建物買取請求権を行使できるような場合や、賃貸借契約時に特別な形で返却することが決められていた場合を除いて、借地契約を更新しない場合は基本的に原状回復をする義務が借主にあります。
借りた土地に建てていた建物を解体して、更地にして地主に返却します。
借地に建つ建物を解体する際の費用負担等
借地に建てた建物を解体する場合、契約期間や借地権をどうするかによって解体費用を借主と地主のどちらが負担するかがが変わります。
借地契約を継続・更新した状態で建物を解体する
借地契約が継続された状態で建物を解体する場合は、建物の老朽化や家族構成の変化などを理由に新築するケースがほとんどと思われます。
この場合は、基本的には「地主の承諾」と地主への「承諾料の支払い」が必要となります。ただし、借地契約書に「増改築禁止特約」の記載がなければ、地主の承諾なしに建て替えることは可能であり、承諾料も支払う必要はありません。しかし、地主の承諾がないと借地権の延長もないので、契約期間満了時を迎えて契約更新する際に問題になる恐れがあります。そういった点や、引き続く地主との関係をよりよく保つために、挨拶程度でも話を通しておくのがよいでしょう。
さらに借地権が定期借地権の場合は、地主の承諾を得たとしても存続期間の延長はできないために注意が必要です。
いずれにしても、この場合の解体費用は借主が負担します。
借地契約を更新せずに(借地権を手放して)解体する場合
この場合には、契約期間を満了する場合と契約期間の途中で何らかの事情によって解約する場合があります。
契約期間満了を控えて解体する場合
契約期間満了を控え、かつ賃貸契約を更新しない場合は、借主が費用負担して建物を解体して更地にして土地を地主に返却します。
契約期間途中で解約する場合
契約期間がまだ残っている途中で、賃貸契約を解約することは原則として認められません。しかし、やむを得ない事情のために契約途中で借地権を手放す場合は、地主と話し合って、借主が建物を解体して更地にして返すのが一般的です。しかし、それには解体費用はもちろんのこと建物がまだ使えるような状態であれば、借主にとっても社会にとっても無駄の多いことになります。その場合には、次項で説明するような方法がありますので、参考にしてください。
地主の都合で契約更新しない場合
借主側が希望しているにもかかわらず、地主側の事情で契約更新をしないということは基本的に認められる可能性はかなり低いです。それでも何らかのやむを得ない事情があって認めざるを得ない場合があるかもしれません。その際は、地主は借主に「明渡し料」を支払い、地主側の負担によって建物を解体して更地に戻すことになります。
ただし、地主側から契約更新を拒否したり、途中で契約破棄を申し出たりすることがあります。その理由が以下のような場合は地主の申し出が認められます。
① 借地権を無断で譲渡した。
② 借地に建てた建物に無断で増改築を行った。
③ 地代の不払い。
借地に建てた家を処分する方法
借地に建てた建物を処分する際は、原状回復義務をきちんと果たすとともに、借地権についてもしっかり処理することが大切です。しかし、解体にはかなりの額の費用がかかります。できればその負担は減らしたいもの。そこで解体以外の処分方法も含めて、借地に建てた家や借地権を処分する方法について説明します。
地主に借地権を買い取ってもらう
これは建物と借地権を処分するには、ベストな方法といえるでしょう。
その理由は、借主が「譲渡承諾料(名義書き換え料)」を地主に支払わずに済むからです。もし借主が第三者に借地権を譲渡する場合、地主に承諾を得ることと承諾料の支払いが必要です。その承諾料を譲渡承諾料といい、借地権価格の10%程が目安になるといわれています。しかし、地主に借地権を売却する場合は、この譲渡承諾料を支払う必要はなくなります。また、地主に譲渡した方が第三者に譲渡するよりも高い価格になりやすい傾向があるので、借主にとってメリットは大きい傾向にあります。
同時に、借地を自分所有の土地にしたいと考える地主にとっても喜ばしい方法です。地主の立場にすると、正当な理由がなければ借地契約の更新は拒否できないことから、一度借地契約してしまったら、別の方法で土地活用しようと思ってもなかなか自由が利きません。しかし、借地権を返してもらえば自分所有の土地としていろいろな活用方法が可能となるからです。
いずれにしても、借地権譲渡については地主との話し合いが必要です。その際、打ち合わせすべき内容として次のことをはっきり決めるようにしましょう。
① 建物付きで買い取りしてもらうかどうか。
② 建物を取り壊したうえで買い取ってもらうか。
③ 解体費用はどちらが負担するか。
④ 借地権をいくらで買い取ってもらうか。
地主と協力して底地と借地権を同時に第三者に売却する
もし地主が底地を処分したいと思っている場合には、借地権と一緒に底地も処分するという選択があります。底地と借地権を一緒に売却するこの方法は、一般的な土地売却と同じ扱いになるため、別々で売却するよりも売れやすくなります。
しかし、買主にとっては借主と地主の双方と契約を結ぶため、その手続きが複雑になります。また、売却価格の扱いについてもトラブルが起こる可能性があります。一般的にこの方法で売却した場合の借主と地主の売却価格の配分は借地権割合が目安になります。借地権割合が60%で、土地が1,000万円で売却できたとしたら、借主が600万円、地主が400万円ということです。相手によっては、これに納得できないことからトラブルに発展することもあります。こういったことなどを含めて、底地と借地権を一緒に売却を考える際は、最初から専門の不動産業者を介して進めた方がスムーズにいくと考えられます。
借地権付き建物として売却する
地主に買い取りを拒否されたり、同時売却も難しかったりした場合、借地権だけを第三者に売却するという方法があります。
この場合、借地権付き建物として個人の買主を募集するか、買い取り業者を探すかして売却することになります。この方法で処分するとしても地主の借地権の譲渡承諾が必要になります。また、家の建て替えを前提として売却するのであれば、建て替え承諾も得る必要があります。
さらに一般の買主に売る場合は、建物への抵当権設定の承諾となる「ローン承諾」も必要になります。これがないと住宅ローンを組めない可能性があり、現金で購入するようになります。となると、買おうとする人は減ってしまいます。そのため、売主となる借主または借地権の買主となる人は金融機関に交渉してこの承諾を得る必要があります。
このように借地権付き建物として売却する場合は、地主・買主・金融機関などとの交渉が必要になり、それぞれの手続きも難しく負担も大きくなります。
借地権を維持したまま賃貸物件にする
借地権はそのままに、借地上の建物を賃貸物件として貸し出すのもおすすめです。地主からの承諾を得るのに手間がかかる、売却価格が思いのほか安かった、などと想定していた通りに行かない場合、借地権を現状維持したまま建物を活用する方法です。
借地上に建てた自分所有の建物を第三者に貸し出すことは、借地権の転貸には相当せず、地主に承諾を得る必要はありません。
もし貸し出す場合にリフォームが必要である場合、それが経年劣化による軽度の雨漏りや壁の修繕程度であれば、地主の承諾は必要ありません。しかし、大規模なリフォームや増改築を行う際は地主の承諾が必要です。実際のところ、地主の承諾が必要なリフォームはどの程度のもので、どの程度ものであれば承諾を得る必要がないかの線引きはあいまいです。
まずは専門業者に賃貸物件として貸し出すことやリフォームに関して相談するとともに、地主の方にも計画を話してみてはいかがでしょうか。リフォームに関しても、柔軟な回答が返ってくるかもしれません。
建物を取り壊して更地の状態で地主に返還する
状況によっては、更地に戻して借地を地主に返す方法をとった方がよい場合もあります。例えば次のような場合が考えられます。
① 借地としても賃貸物件としても需要が望めないような立地にある
② 今後もその土地や建物を利用する予定はない
③ 地主に買い取りをしてもらえそうにない、もしくは、地主に買い取りを打診したが断られた
この方法を選択する際に注意すべきことは、建物買取請求権は行使できないということです。すでに説明しましたが、これは貸地契約が終了したときにその上に建っている建物を地主に買い取ってもらえる権利です。しかし、今回のように借主から申し出て契約を解除する場合にこの権利は使えず、借主が解体費用を負担するようになります。借主にしてみれば、必要のない土地や建物を地代や管理費用をかけながら維持していく負担を考えれば、解体費用をかけてでも処分した方がいい、との思いもあります。
もちろんそうですが、できれば解体にかかる負担も減らしたいものです。そのため、一度であきらめずに地主との交渉を何度か重ねてみてはどうでしょうか。
もしかしたら買い取ってもらえるようになったり、解体費用についての負担を折半してもらえたり、ということがあるかもしれません。それでも変わらないときは、従来通り、借主の負担で建物を処分しましょう。その場合も、解体費用の負担を軽くする方法がありますので、こちらも参考になさってください。
借地に建てた家の解体を考える際に確認しておくべきこと
借地権にまつわることは、自分だけではなく地主や第三者が関わるため、トラブルが起こる可能性もほかのことより高いかもしれません。しかし、できれば穏便にスムーズに事を進めたいですね。そのために、具体的に計画を進める前に次のことを抑えておきましょう。
① まず契約書を開いて、借地権の契約期間がいつまでなのか確認。
② 契約期間とともに、旧法で契約しているか、新法で契約しているか、定期借地権なのかといった契約内容も確かめます。
③ 契約期間終了時の借地返還についての条件はどのようになっているかもチェックしましょう。
④ 地主と話し合いを重ねましょう。可能であれば、日ごろから地主の方とは挨拶程度でもお付き合いをしていた方が、こういった場合にその関係性が役立ちます。さらに一度で話を決めようとしないで、最初は「こんなことも近いうちに必要になるかと思うのですけど……」と世間話の1つとして本題の伏線を張っておくことも作戦として有効です。
困ったときにはすぐに相談を
借地法や借地借家法といった法律が深く関係してくる借地権の取り扱いは、1人で対処するには難しいことが多々あります。そんなときは、1人で抱え込まずに、それぞれの段階に応じて相談することをお勧めします。
まず、具体的に計画を立てようと思うものの、どのような情報が必要か、どのように必要な情報を集めればいいのかわからない、という段階がだれにでもあります。そんなときにはインターネットの情報が最も身近です。しかし、インターネット上の情報はあまりにも膨大です。「借地権」「借地法」「借地権譲渡」などとキーワードを絞り込みながら必要な情報を探していくといいでしょう。
また、不動産業者や当社のような業者の無料相談(無料見積り、Q&Aにリンク)などを利用する方法もあります。この際、”無料”ということだけでなく、そのホームページの内容が利用者側たったわかりやすい細やかな内容かどうかを見る必要があります。
地域で開催される不動産無料相談会なども有効です。
これらを利用して、ご自身がどのような知識をもっていた方がよいか、どのような準備をしながら計画を進めたらいいかといったポイントをまとめます。
そして具体的に計画を進めるにあたっては、地主の方との交渉や必要に応じて不動産業者を介した話し合いなどをしていきます。不動産業者も、借地権の対応に慣れている業者を選ぶことが必要です。最初の問い合わせの際にその点を確認しておきましょう。また前項でも説明しましたが、基本は借主と地主の方との信頼関係です。日ごろから地主との良好な関係とコミュニケーションが大切です。
まとめ
借地に家を建てている人のなかには、何代もの間、ずっと借り続けていることも少なくありません。もともと借地権はそうして土地を借りている人が、その場所で安心して暮らし続けていられるように作られたものです。
しかし、社会情勢とともに家族の在り方も核家族が一般的になってくると、子どもたちは独立して借地に建った家を継ぐ人がいなくなるケースも出てきて、借地権をなんらかの方法で返還することも少なくありません。また、せっかく交渉を始めても、その内容が二転三転することがあるようです。
借地権の処分に対しては、借主ご本人と地主の方、場合によって借地権や建物の買主や不動産業者などいろいろな人が関わります。しかし、そのもととなる部分は、地主と借主との関係です。この部分を普段のお付き合いからよいものに保つことが大切です。
そして計画を進めるにあたっては、契約期間をしっかり確認して、余裕をもって計画を進めるようにしましょう。例えば更地にして戻す場合は契約期間内に更地にできるように、第三者に建物付きで借地権を譲渡するのであれば、契約期間内に買主がローン承諾を金融機関からとれるように、です。期間に余裕をもって、契約期間中に更地に戻して地主に返却できるようにしましょう。
また、計画を進める際にちょっとした不安や疑問が生じたら、すぐに相談してください。私たちマトイでも、直接のご依頼につながらないようなことでもご相談に乗っていますので、お気軽にご連絡ください。
詳しくはマトイ無料お見積りフォームもしくはお電話でお気軽に!
記事の監修
株式会社マトイ 営業担当菅野(かんの)
株式会社マトイ営業部の菅野です。コラムの監修をしております。
実際に仕事の中で経験したこと、調べてより勉強になったこと、両方を読んでくださる皆さまと共有できたらと思っています。
解体は初めてのご経験という方、とても多いのではないでしょうか。
ご不明な点やご要望、疑問に思われていることはございませんか。
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